ビルの建設費っていったいどれくらいかかるの?
土地を相続した場合に、ただ土地を所有しているだけでは固定資産税がかかるだけです。そのため、「土地活用」を検討される方も少なくありません。
土地活用の方法として様々なものがありますが、その土地の条件によってふさわしい土地活用の方法は変わってきます。駐車業経営の他に、住宅街であればマンションやアパートを建てて賃貸収入を、駅近・オフィス街であれば、ビルを建ててテナント収入を得るのも良い方法と言えます。
しかし、ビルを建てようと思っても、実際にどれくらい費用がかかるのか分からない方がほとんどではないでしょうか。そこで、ビルの建設にどれくらいの費用がかかるのか、その目安と算出方法などを詳しく解説していきたいと思います。
ビル建設費用の目安と算出方法
ビルの建設費用の計算は、次の簡単な計算式で算出できます。
【建設費 =延べ床面積(坪数)×坪単価】
延べ床面積(のべゆかめんせき)というのは、土地の面積ではなく、建物の床面積の合計値を言います。
1階から上部まで形状が変わらない5階建てのビルを建設した場合の延べ床面積は、1階分の床面積が80坪であれば、延べ床面積は、80坪×5階=400坪となります。
この延べ床面積は、その土地の建蔽率(けんぺいりつ)に影響されます。
建蔽率とは、その土地に対して建物が占める割合を指します。
建蔽率の制限は地域によって割合が違います。そこを住宅地域にするのか、はたまた商業地域にするのかといった使い道は各市町村により細かく分類されているためです。所有している土地の建蔽率を一度確認しましょう。
例えば、所有している土地の広さが100坪、建蔽率が80%だとすると、1階分の広さ80坪のビルが建てられるということです。5階のビルを建てるなら、先ほどと同様に80坪×5階=400坪の建物となります。
建蔽率の上限値は、駅付近であれば80%、それ以外の土地ではほとんどが60%以下です。
賃貸住宅(マンション)とビル建設の違い
マンションやアパートなどの賃貸住宅に比べ、ビル建設は収益性が非常に高いです。
個人向けの契約形態であることが多いマンションやアパートに比べ、ビルは法人向けがほとんどで、同面積であっても賃料の差は2倍ほど違います。また、法人の場合は一度契約に至れば長期で利用される場合が多く、空室になるリスクも少ないです。
高い賃料で継続性も高い、つまり収益性が非常に高いのが、ビル建設の最大のメリットと言えます。
また、マンションやアパートを建てるときは建築基準法や条例などで、土地の形状によって建設できなかったり建物の形状や高さなどに制限がかかったりすることがありますが、ビル建設の場合は住居用に比べると、建築基準法や条例などの制限が緩和されています。
建設費に関しては、ビルもマンションも坪単価×土地面積で決まることが多いですが、ビルの場合は用途によっては、内装に費用が掛からない場合があります。
例えば、商業施設だと、マンションとは違ってキッチンやお風呂を入れる必要はありません。内装はそれぞれのテナントのオーナーが負担し好きなデザインにすることが多いです。
ビルの構造ごとの坪単価について
ビル建設に関しては、その構造においても費用が変わってきます。
構造の種類としては、主に
・SRC造(鉄筋鉄骨コンクリート造)
・RC造(鉄筋コンクリート造)
・S造(鉄骨造)
の3種類があります。
階数やビルの利用目的によってその構造を変える必要があり、その構造によって使用している部材が違うためです。
2018年に国土交通省が発表した「建築着工統計調査」によると、構造ごとの建設費坪単価は以下のようになっています。
・SRC造(鉄筋鉄骨コンクリート造) … 坪単価 約134万円
・RC造(鉄筋コンクリート造) … 坪単価 約119万円
・S造(鉄骨造) … 坪単価 約97万円
ビルの設備によっても値段が変動するのであくまで目安となりますが、ビルの構造によって施工費が変わってくることは理解しておきましょう。
3階建てビルの建設費の相場
敷地面積や建蔽率によって建物の大きさも変わったり、構造によっても建設費が変わったりするため、同じ3階建てビルの建設費だとしても金額の差が出てしまいますが、国土交通省が発表した数値を基準にして算出すると下記のようになります。
■敷地面積50坪 建蔽率60% 3階建てビル
・RC造の場合の建設費
… 50坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×3(階数)×119万(坪単価)=1億710万円
・S造(重量鉄骨造)の場合の建設費
… 50坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×3(階数)×97万(坪単価)=8,730万円
■敷地面積80坪 建蔽率60% 3階建てビル
・RC造の場合の建設費
… 80坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×3(階数)×119万(坪単価)=1億7,136万円
・S造(重量鉄骨造)の場合の建設費
… 80坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×3(階数)×97万(坪単価)=1億3,968万円
■敷地面積100坪 建蔽率60% 3階建てビル
・RC造の場合の建設費
… 100坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×3(階数)×119万(坪単価)=2億1,420万円
・S造(重量鉄骨造)の場合の建設費
… 100坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×3(階数)×97万(坪単価)=1億7,460万円
■敷地面積200坪 建蔽率60% 3階建てビル
・RC造の場合の建設費
… 200坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×3(階数)×119万(坪単価)=4億2,840万円
・S造(重量鉄骨造)の場合の建設費
… 200坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×3(階数)×97万(坪単価)=3億4,920万円
この建設費は本体工事費にかかる費用です。実際には、これ以外に、地盤調査費・地盤改良費・設備回り・外構費などの費用がかかるため、20%上乗せして考えておくと良いと思います。
5階建てビルの建設費の相場
国土交通省が発表した数値を基準にして算出すると下記のようになります。
■敷地面積50坪 建蔽率60% 5階建てビル
・SRC造の場合(鉄筋鉄骨コンクリート造)の建設費
… 50坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×5(階数)×134万(坪単価)=2億100万円
・RC造の場合の建設費
… 50坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×5(階数)×119万(坪単価)=1億7,850万円
・S造(重量鉄骨造)の場合の建設費
… 50坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×5(階数)×97万(坪単価)=1億4,550万円
■敷地面積80坪 建蔽率60% 5階建てビル
・SRC造の場合(鉄筋鉄骨コンクリート造)の建設費
… 80坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×5(階数)×134万(坪単価)=3億2,160万円
・RC造の場合の建設費
… 80坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×5(階数)×119万(坪単価)=2億8,560万円
・S造(重量鉄骨造)の場合の建設費
… 80坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×5(階数)×97万(坪単価)=2億3,280万円
■敷地面積100坪 建蔽率60% 5階建てビル
・SRC造の場合(鉄筋鉄骨コンクリート造)の建設費
… 100坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×5(階数)×134万(坪単価)=4億200万円
・RC造の場合の建設費
… 100坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×5(階数)×119万(坪単価)=3億5,700万円
・S造(重量鉄骨造)の場合の建設費
… 100坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×5(階数)×97万(坪単価)=2億9,100万円
■敷地面積200坪 建蔽率60% 5階建てビル
・SRC造の場合(鉄筋鉄骨コンクリート造)の建設費
… 200坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×5(階数)×134万(坪単価)=8億400万円
・RC造の場合の建設費
… 200坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×5(階数)×119万(坪単価)=7億1,400万円
・S造(重量鉄骨造)の場合の建設費
… 200坪(敷地面積)×60%(建蔽率)×5(階数)×97万(坪単価)=5億8,200万円
5階建てのビルを建設しようとしている人が気を付けなければならないのが、「高度地区」です。
5階建てとなると、高さは12mから15mとなることが多く、エリアによっては10m以上の高さの構造物を建てることができないことがあるので注意が必要です。
10階建てビルの建設費の相場
国土交通省が発表した数値を基準にして算出すると下記のようになります。
■敷地面積50坪 建蔽率80% 10階建てビル
・SRC造の場合(鉄筋鉄骨コンクリート造)の建設費
… 50坪(敷地面積)×80%(建蔽率)×10(階数)×134万(坪単価)=5億3,600万円
・RC造の場合の建設費
… 50坪(敷地面積)×80%(建蔽率)×10(階数)×119万(坪単価)=4億7,600万円
■敷地面積80坪 建蔽率80% 10階建てビル
・SRC造の場合(鉄筋鉄骨コンクリート造)の建設費
… 80坪(敷地面積)×80%(建蔽率)×10(階数)×134万(坪単価)=8億5,760万円
・RC造の場合の建設費
… 80坪(敷地面積)×80%(建蔽率)×10(階数)×119万(坪単価)=7億6,160万円
■敷地面積100坪 建蔽率80% 10階建てビル
・SRC造の場合(鉄筋鉄骨コンクリート造)の建設費
… 100坪(敷地面積)×80%(建蔽率)×10(階数)×134万(坪単価)=10億7,200万円
・RC造の場合の建設費
… 100坪(敷地面積)×80%(建蔽率)×10(階数)×119万(坪単価)=9億5,200万円
■敷地面積200坪 建蔽率80% 10階建てビル
・SRC造の場合(鉄筋鉄骨コンクリート造)の建設費
… 200坪(敷地面積)×80%(建蔽率)×10(階数)×134万(坪単価)=21億4,400万円
・RC造の場合の建設費
… 200坪(敷地面積)×80%(建蔽率)×10(階数)×119万(坪単価)=19億400万円
10階建てのビルを建築するには、かなり大きな費用が必要となります。
上記の建設費以外にも、設備費や土壌汚染対策費用、近隣対策費等も発生することがあります。建設費以外にも40%程度上乗せして考えておくと安心です。
また、注意点としてお伝えすることがあります。
それは、建物の高さを31m以内に抑えること。
建物の高さは、敷地面積や容積率、エリアの条例(高度地区など)によって変わりますが、建物の高さが31mを超えてしまうと、建築基準法で非常用エレベーターの設置や排煙設備の設置が義務付けられているので、設備費用が高くなります。
同じ10階建てでも31mを超えているかどうかで、非常用のエレベーターの設置や排煙設備の設置をしなくてはならず、高層建築物としての規制を受けることになり、建設費用が割高になるので注意が必要です。
ビル建設の注意点
ビル建設においては多額の費用がかかるため、運営には収益性の高さが求められます。賃料と継続率のバランスと土地の立地が重要なポイントとなります。見誤ってしまうと、上手く人が集められず、テナントが入らない・継続しないという事態になってしまいます。
赤字になってしまうだけでなく、多額の借金を抱えてしまうかもしれません。
そこで、ビル建設の注意点としてまずお伝えしたいのは、その土地がビル建設に向いているかどうかを検討することです。
ビル建設に、最も適している土地と言えばアクセスのよい土地です。特にオフィスビルや商業ビルであれば、利用者がアクセスしやすい駅近くの場所にあることが何より重要となります。また、オフィスや商業施設を利用目的とするのであれば、ある程度の面積が必要となります。
ビルでの土地活用を行う場合には、少なくとも60坪以上の土地が適しているといえます。
次に、お伝えしたい注意点は、リスクが高いことです。
アパートやマンションの個人契約と違い、賃料を高いことや継続率が高いことがメリットではありますが、その反面、退去されたときの収入減のリスクが高くなります。
また、建物のメンテナンスも費用が高く、メンテナンスが行き届いていなければ退去のリスクにつながります。近くで新しいビルが建った時には、テナントがそちらの新しいビルに移ってしまうことも考えて、賃料の市場調査や条件の見直しを定期的に行う必要があります。
まとめ
ここでご紹介したのはあくまで目安となる建設費です。
建蔽率や建物の高さなどは、地域や地区によって変わりますので、事前に確認が必要です。
またビルは建設費が高額となるため、その費用の見積もりにあたっては、必ず複数の建設会社に依頼するようにしてください。建物の構造によって坪単価が大きく変わります。建物の目的や大きさに合わせて構造を選ぶことが重要ですが、それによって建設費も変わってくるので、専門家の意見を聞いて計画を立てることが重要です。
そして、ビル経営は土地活用において収益性の高い方法の一つではありますが、ハイリスクハイリターンということを意識しなければなりません。
今回、いくつかの例を取り上げてビルの建設費の目安をご紹介しました。相続などで土地を手に入れた後に、どのように運用しようか迷われている方に、今回の記事が参考になれば幸いです。
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