不動産所得と損益通算の関係を詳しく解説
「損益通算って、なに?」
「損益通算について詳しく知りたい」
「不動産所得と損益通算の関係は?どういった時に利用するの?」
こんな疑問やお悩みありませんか?
不動産経営を始めて確定申告の方法を調べると、「損益通算」というキーワードを目にする機会も多いですよね。
不動産経営において、手元に残るお金を増やす可能性がある損益通算は必ず覚えておいて欲しい事柄です。
そこで、今回の記事では不動産所得の損益通算を詳しく解説していきます。
損益通算の上手な使い方も併せて紹介していきます。
損益通算とは
損益通算は確定申告時に、申告する所得の額を引き下げて納めなければならない税金を少なくする方法です。
事業経営を行っていくにあたって、不動産所得に掛かる税金は決して軽視できない支出、赤字の要素となります。
そのため、不動産所得を得ている経営者にとって損益通算は心強い味方となってくれます。
ただし、不動産所得の損益通算を利用するためにはいくつかの条件があるため、基本的な知識を押さえていきましょう。
経営赤字を出した時の節税策の一つ
第一に押さえておくべき点は、自分の数ある所得の中で赤字所得がある場合にのみ損益通算を利用出来る点だといえます。
損益通算は納税額の基準となる所得を赤字所得によって引き下げて申告する行為です。税務上、所得には種類が定められており、給与所得や事業所得、不動産所得など様々な所得があります。
損益通算を利用すれば、ある所得で赤字が発生している場合にその赤字分だけ総所得を引き下げることが可能なのです。
よくあるケースとしては、副業でアパート経営をしている方が、サラリーマンとして稼いでいる給与所得から不動産所得の赤字分を差し引いて申告する場合があります。
給与所得が1000万、不動産所得の赤字が200万円だった場合に、納税の基準となる所得は1000万ではなく、1000万円ー200万円=800万円にまで圧縮出来るのです。
このため、損益通算を上手く利用することが出来れば大きな節税効果を得られます。
不動産所得の決まり方
不動産所得が赤字になるのは、家賃や礼金といった不動産収入よりも物件の管理費用や減価償却費、保険料などのいわゆる経費が上回った場合です。
損益通算を行うためには普段からしっかりと経費を記録し、確定申告時に計上出来なければいけません。
注意点は単純な経費の増加は現金の流出に繋がるため、損益通算による節税を行っても、結局は手元に残るお金を減らしてしまう危険がある点です。
損益通算のポイントで詳しく紹介しますが、損益通算によって現金を手元に残すためには工夫が必要となってきます。
その他の損益通算可能な所得について
給与所得が赤字になることはありえませんが、不動産所得以外にも赤字となる可能性がある所得を持っている方もいますよね。
しかし、全ての赤字所得が損益通算出来るわけではありません。
例えば、雑所得や配当所得、非課税の扱いを受けている所得の計算上で生まれた赤字など、一部の所得は損益通算に利用出来ないのです。
そこで、損益通算に使える不動産所得以外の所得についても詳しく見ていきましょう。
事業所得
事業所得に含まれるのはサービス業や小売、農業に至るまであらゆる事業による所得です。
事業の中でも不動産の賃貸業は不動産所得、山林の所得は山林所得と別の枠組みになる点には注意が必要です。
ただし、不動産所得も山林所得も損益通算に利用可能な点は覚えておきましょう。
譲渡所得
土地や建物、株式から会員権まで様々な資産を売買し、所有権を譲渡することによって出た損失も赤字所得として損益通算可能です。
不動産経営者の中には物件の取引を行う方もいますよね。建物の売買を繰り返していると、購入した当時よりも価格が下がってしまい、売却時に元を取れなくなってしまう可能性も十分にあります。
譲渡によって発生した赤字は損益通算可能です。
ただし、譲渡所得は不動産所得や給与所得など他の所得とは損益通算が出来ないので気を付けましょう。
差し引けるのは譲渡で得た収益の黒字部分などからだけになります。
山林所得
損益通算で使える所得の中でも山林所得には少し注意が必要です。
基本的には山林を伐採したり譲渡したりした際に生ずる収益が山林所得に含まれるのですが、取得してから5年以内の山林からの伐採・譲渡であれば事業所得に該当します。
また、山を丸ごと譲渡する場合などは譲渡所得となります。
赤字となる例としては、伐採に掛かる費用や売却の仲介手数料などの経費が山林から上げられる収益を上回った場合です。
所得によって差し引きの順番が異なる点に注意
譲渡所得の話でも少し触れましたが、損益通算は赤字所得の種類によって差し引き出来る範囲や順番が異なります。
第一段階として、一時所得と譲渡所得のグループと不動産、事業、給与、配当、利子、雑所得のグループ、2つのグループの中でのみ損益通算を行います。
黒字のグループと赤字のグループが存在した場合、二段階目の計算はグループ同士での損益通算です。
赤字の山林所得による損益通算が行われるのは、グループ同士の損益通算が終わった後に残った所得からとなります。
不動産所得は多くの人が受け取る給与所得と同じ計算範囲にあるので損益通算を行う上でとても重要です。
損益通算が出来ない場合とは?
不動産所得による赤字を利用して節税を行う非常に便利な損益通算ですが、使えないパターンもいくつか存在します。
この項目では、損益通算が出来ない場合を紹介していきます。
土地取得に利用したローンの利子による赤字
まずは必要経費の中でも、土地を購入するのに借りたローンの利子を返済するために生じた支出は赤字として損益通算に用いるのに制限があります。
ローンの利子分の赤字については、不動産所得の赤字を越えてしまった分までしか損益通算に利用出来ないのです。
ここで注意が必要なのは全てのローンが損益通算不可能だというわけではない点です。
不動産を扱うとなると建物の取得にもローンを利用する機会が多いですが、土地ではなく建物に関するローンの利子部分に関しては損益通算可能となります。
土地と建物の両方のローンを借りている場合には、必ず分離をした上で損益通算を行ってください。
一部の不動産所得
人の暮らしを支えるアパートやマンションなどによる不動産所得の赤字は損益通算可能ですが、不動産所得の一部には損益通算が出来ない赤字もあります。
それはリゾート地での別荘経営など、本来必須ではないと考えられている賃貸経営を行った場合の赤字です。
他にも、信託不動産などは信託不動産所得の収益内でしか損益通算が出来ません。
全ての不動産所得が損益通算可能ではない点を覚えておきましょう。
不必要な投資による赤字
別荘などの不動産所得は損益通算出来ないと先ほど述べましたが、美術品や骨董品、貴金属などといった生活上必須ではない投資で生じた赤字も損益通算は出来ません。
その他にも、先物取引などで発生する雑所得等の計算上で発生した赤字も含められません。
所得を差し引くための控除に使える赤字の種類は限られているため、損益通算を行う際には注意が必要です。
損益通算の繰越控除の仕組みについて
いままで、損益通算可能な赤字と不可能な赤字について詳しくご紹介しました。
次の項目では、損益通算を利用するにあたって、その効果を最大限活用するために押さえておきたい繰越控除の仕組みについて解説していきます。
繰越控除とは?
繰越控除とは、過去の年に出していた赤字分を、今年の利益からも控除できる制度です。
不動産所得や事業所得、山林所得に限って過去の赤字を利用できます。
例えば、昨年の不動産所得が100万円の赤字で損益通算可能な黒字がなかった場合、その100万円分の赤字を次の年に出した不動産所得の200万円分の黒字から控除出来るようになります。
損益通算の繰越控除が出来ない場合、本来100万円分の赤字を利用して得られたはずの節税効果が失われてしまっていたはずなので、大きな差になりますよね。
特に入居者が定着するまでにタイムラグが発生する不動産経営は、初年度に不動産所得の赤字が発生しやすいので損益通算で繰越控除のお世話になるケースが非常に多く見られます。
そのため、赤字の繰越控除の制度は必ず押さえておくべき知識です。
最長3年間まで繰り越し可能
損益通算の繰越控除で赤字を繰り越せる年数には限りがあるので注意が必要です。
青色申告を行っていれば、過去3年間までの赤字を繰り越して控除させられます。
また、青色申告を行う場合には帳簿をしっかりと作成する必要が発生しますが、65万円分の特別控除を受けられたり、家族を事業の従業員として働かせた場合の給料を経費扱いに出来たりと多くの特典が得られます。
青色申告は3年間の繰越控除と併せて、所得税を節税し手元により多くのお金を残す有力な手段だと覚えておきましょう。
ただし、白色申告では制限がある
繰越控除でとりわけ気を付けて欲しいのは白色申告を行っている場合です。
白色申告者の場合は、実は特別な例を除いて繰越控除を利用出来ません。
特別な例というのは、事業用の資産が災害によって赤字を被った場合や、印税などの変動所得の計算上に発生した赤字に限られます。
昨今の例を挙げると、コロナによって飲食店が店に消毒器具を設置する際などの購入費用などが当てはまります。
白色申告によって繰越控除を行うのは基本的に特別な事例となるので、初年度に赤字が生じやすい不動産所得に関しては青色申告を選んでおいたほうが無難です。
損益通算のポイント
最後の項目では損益通算を上手に活用するためのポイントを解説していきます。
節税だけを目的にしてはいけない
まず理解しておいて欲しいのは節税だけを目的に損益通算を行ってはいけない点です。
損益通算は赤字が生じている際に利用可能な節税の方法なので、節税出来るからといって経営赤字の状態を放置してはいけません。
実際に現金が失われていく経営赤字が続いている以上、節税を行っても赤字の数字が減るだけで、事業による利益が手元に残るわけではないのです。
損益通算を利用するのであれば、可能な限り現金が残る活用を行いましょう。
経費計上(減価償却)によって手元にお金を残すことが重要
実際に不動産所得の損益通算を利用し手元にお金を残すためには、税務に関わる帳簿上での赤字を増やし、現金が出ていってしまうような赤字は避けるべきです。
具体的な方法としては、不動産所得に関連する経費の一つである減価償却費を利用する手が考えられます。
減価償却費とは、固定資産の全体価格を資産の使用可能な年数で割り、割り出した金額を毎年計上していく経費です。
アパートの例に挙げると、30年の使用年数(耐用年数)が残っている6000万円の建物を取得した場合に、毎年200万円ずつ減価償却費を計上していけます。
購入時こそ多額の現金が必要となりますが、建物の使用年数が残っている限りはずっと不動産所得から経費として差し引いていくことが可能です。
毎年、手元に残るお金を増やすのであれば、減価償却費による不動産所得の損益通算は忘れてはいけない要素です。
経営赤字による現金の流出を避けよう
減価償却費用とは異なり、実際に現金が流出してしまうような不動産所得の赤字は、損益通算可能といっても避けるべきです。
不動産所得における赤字は家賃収入を必要経費が上回っている場合に発生します。
家賃収入を安定させるのはもちろんですが、経費を抑えるのも堅実に現金流出を避ける手段です。
不動産経営の経費として考えられる建物の管理維持費用や保険料などの必ず必要な経費は削るべきではありませんが、リフォームや改築工事などで大きな経費が発生する場合には、本当に必要な支出かどうか一歩踏みとどまって考えてみるべきです。
現金流出に繋がる赤字を避け、手元にお金が残る仕組みが完成さえしてしまえば、事業の継続は可能ですし、新しい投資先を見つけたり、経営赤字を脱却したりする他の手段を試すのに使えます。
まとめ
今回は不動産所得の損益通算を紹介していきました。
節税効果のある損益通算は、開業初年度に赤字になりやすい不動産所得だからこそ必ず押えておきたい知識の一つです。
十二分に活用して、手元にお金が残るキャッシュフローの仕組みを整えましょう。
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